「今までに一度はペットショップへ行った事がある」という方が多いと思いますが、今やペット産業は1兆5000億円規模の巨大市場となっています。
その内容はペットフードや生体販売はもちろん、トリミングなどの美容、動物病院などの医療、ペット用品販売やペット保険など多岐にわたるサービスがあります。
年率1%のペースで伸びている成長産業ですが、その裏側には根深い闇の部分がある事はあまり知られていません。
今のペット産業は恐らく誰が見ても「良い状況」だと思わないぐらい問題点が山積みですが一向に改善されないまま時が過ぎています。
この負のループが永遠と続いている今の状況を断ち切る為に、私達にもできる事があるのか考えてみました。
ペット産業の全体像
ペットを飼おうと思った時にペットショップに行く方もいると思いますが、可愛い子猫が沢山いますよね。
でもこの子猫たちはどこから来たのかな?って考えた事はありませんか?
兄弟は?親猫はどんな環境にいるのかな?
生体販売を中心に巨額のお金が動いているペット産業の全体像を見ていきましょう。
日本の生体販売の流れ
ザックリと現在の流れを図にするとこの様な流れになります。
繁殖業者であるブリーダーから始まり直接飼い主へ販売されるケースもありますし、オークションやペットショップを経由して飼い主の元へ来る猫もいます。
ブリーダーが卸業者やペットショップと兼業である場合も多く、どの様な業種の業者が何社あるのかと言う実態も今は把握しにくい状況です。
少し古い情報ですが平成15年に環境省がまとめたデータでは「生産+卸売+小売」と言う兼業業者が最も多く385社と30%を超える比率でした。(ペット動物流通販売実態調査 報告書 (平成15年3月)III.犬・猫の調査結果)
海外と日本の違いとは?
海外から来た方が驚く事に日本のペットの展示販売があります。
海外にもペットショップ自体はあるのですが、日本の様に生後2~3か月の様な子猫を展示して販売している国は極めて少ないようです。
2018年8月にイングランドで生後6か月未満の子猫の販売が禁止になった事からも分かる様に法整備と言う点では日本はかなり遅れています。
でも急に海外のペット先進国と同じ様にはなれないので少しずつ変えていくしかないですね。
イングランドだって急に販売禁止になった訳ではなく、長い年月をかけて戦ってきた結果変わる事ができたはずです。
社会化期とは?
ペットの生体販売の話をしていると必ず出てくるのが「社会化期」と言う言葉です。
生後2~3か月までの期間を指す事が多いようですが、この時期は好奇心旺盛で色々な相手や色々な事に慣れさせる事ができる時期です。
この時期に慣れておく事で「飼い主以外の人」や「他の猫」「動物病院」等に対して必要以上に恐怖心を持たない子になったり、爪切りや歯磨きを嫌がらない子になったりするのです。
例えばこの社会化期に人と触れ合う機会がなかった野良猫は保護された時に人に慣れるのにとても時間がかかりますし、逆に離乳前から人に育てられて他の猫と接点がなかった猫はやはり他の猫と仲良くなるのが難しい事があります。
もちろん個体差がありますので社会化期に適切な環境で過ごしたすべての子猫が社交的になる訳ではありませんが、子猫にとって生後3か月の社会化期はかけがえのない大切な時期であるという事は間違いないと思います。
8週齢規制とは?
今、動物愛護法を改正しようと活動している方が沢山いる中で「8週齢規制」と言う言葉が出てきます。
これは生後8週間、つまり56日間は親元から離さず子猫を販売してはいけないというルールの事です。
先程お伝えした社会化期ど真ん中の時期にあたりますので、親元で兄弟たちと一緒に色々な事を学ぶべきとの考えからできたルールです。
実際にペット先進国の欧米では多くの国が商業目的の輸送などで8週間は母猫から引き離してはいけないというルールが法律や規定で定められています。
日本では2012年に改正され2013年に施行された動物愛護法で「生後56日齢以後の動物が販売される事」となったのですが、「2016年8月31日までは生後45日を期限とする」と言う内容の注意書きが付記されていました。
2016年9月1日からは、生体販売の日齢は「生後49日以後」に段階的に変更となりましたが、この日齢がもともとの法律の規定である56日にいつ切り替わるのかは明記されていません。
ルールが1週間伸びるだけで不利益を被る人がいて、その人達が抵抗している状況がもう何年も続いているんです。
ブリーダーとは?
ペット産業を支えるブリーダーとは猫を繁殖させている人の事を指しますが、ブリーダーにも色々な種類がある事は知らない方も多いようです。
この章ではどの様な種類のブリーダーがあるのか、その裏側まで具体的に見ていきましょう。
シリアスブリーダー
シリアスブリーダーはブリーダー全体の10%程しかいないと言われており、多種を扱わず特定の種類の猫のブリードのみを行うブリーダーです。
繁殖やその種の特徴、多い疾患などを熟知した上で、健康で優良な血統を維持する為に無理のない周期(数年に1回など)で正しい繁殖を行っています。
必要最低限のブリードしかせずショーやコンテストを目指す子や繁殖する為の子を飼育し、自分の所に残さない子供を譲渡する場合もあります。
ですので商売としてブリーダーをやっているというよりは本業が別にあってブリーダーもやっているというケースが多いです。
ホビーブリーダー
全体の20%程を占めるのが趣味や愛玩として少数の飼育と繁殖を行うホビーブリーダーです。
ホビーブリーダーも十分な知識を持ち、1匹1匹愛情を持って手間暇かけて育て一般家庭に譲渡します。
一般的に「良いブリーダー」とか「優良ブリーダー」と言われるブリーダーはホビーブリーダーである事が多い様です。
セールスブリーダー
一般的に幅広く認知されてる「ブリーダー」とはこのセールスブリーダーである事が多く、全体の50%程を占めると思われます。
販売目的で猫を繁殖させ、ペットショップに卸したりオークションに出したりします。
ペットショップと専属契約を結んでる場合もあり、安定的に供給する為にホビーブリーダーよりも大規模な飼育になる。
数も多いので一言でセールスブリーダーと言ってもレベル感はピンキリだったりします。
パピーミル
今、とても問題視されている劣悪なブリーダーで、全体の20%程とも言われています。
自分の利益を追求し、猫の健康状態は二の次で親猫に無理なスケジュールで出産させる傾向があります。
狭いケージの中で子供が産めなくなるまで妊娠・出産を休みなく繰り返し、小さい猫のほうが人気が出る為に意図的にエサを与えない等、倫理的に問題がある飼育をする場合もある様です。
ペットオークションとは?
ペットショップはそのほとんどがペットオークションや卸業者から子猫を仕入れています。
オークションに参加する売り手であるブリーダーと買い手であるペットショップや卸業者が登録し、子猫をオークション(せり)で取引しています。
オークション業者は売り手と買い手の入会金や年会費、落札価格の数%を仲介手数料として取る事で成り立っています。
一般の方はほとんど知らない世界なのでどの様な流れで取引されるのか?何が問題点なのか?見ていきましょう。
オークションの仕組み
環境省のデータでは平成29年4月時点で全国に26か所のオークション業者が確認されています。
その中でも「一般社団法人ペットパーク流通協会」に加盟しているのは14か所で、それ以外は独自の事業展開をしているようです。
小さな段ボールに入れられた子猫たちは数分の間にどんどん値付けされ競り落とされていきます。
ブリーダーとしてもペットショップとしても年間何十万匹も取引されるペットオークションがなければ流通が成り立たない状況になっています。
次の章ではペットオークションの問題点を見ていきましょう。
流通過程での問題点
8週齢規制のところでもお伝えした「付則」が現在も有効なので、現状は生後49日を過ぎれば子猫を販売する事が可能です。
しかし社会化期の真っ只中のタイミングで離乳もそこそこに母猫や兄弟から引き離され、狭い段ボールに入れられ、空調もままならない中で長い時間輸送され、オークションにかける為の検査を色々される。
一般常識のある大人ならこの状況を「子猫にとってストレスがない」と思う方がいるでしょうか?
現にこの流通過程で毎年、何万匹もの子猫や子犬が命を落としている事は既に確認が取れている事実なんです。(ペット動物流通販売実態調査 報告書 (平成15年3月)III.犬・猫の調査結果)
更に健康管理ができていない事もあり免疫力の低い子猫の間で伝染病や感染症が広がってしまう事もあるようです。
それもこれも「可愛い子猫のうちの方が高く売れる」と言う事から、早い段階で流通しよく売れるサイズの時にペットショップで販売したいという考えの表れです。
ペットショップの実態
子猫は繁殖業者であるブリーダーからオークションなどを経て最終的にペットショップで販売され飼い主さんの元へ届けられます。
そしてここでも色々な問題点が指摘されている状況が長年続いています。
全てのペットショップが同じとはもちろん言えませんが、多くのペットショップでこの様な問題点を抱えている可能性があります。
売る側の姿勢
まずペットショップで販売している店員は特別な資格などは必要としないので誰でも子猫の販売をする事ができます。
昨日採用されたアルバイトでもです。
飼育方法のアドバイスや先々の健康リスク、経済的な負担などをしっかりと説明する責任が販売サイドにはあると思いますが、現状の販売現場はちゃんとした対応がされているとは言えないショップが多いと思います。
通常の小売店とペットショップが違うのは商品(子猫)が成長する点だと思います。
やはり子猫の方が可愛いからと売れやすい、しかも高値で売れるという事から仕入れたそばから大きくなってしまう前に売ってしまいたいというのが本音です。
猫を買っていった飼い主が「ちゃんと終世責任をもって飼う事ができるのかどうか」は知ったこっちゃないという姿勢が随所に垣間見えます。
抱っこ商法
ペットショップの得意技がこの「抱っこ商法」です。
子猫を見ていると店員が近寄ってきて「抱っこしますか?」と聞いてくる事が良くあると思います。
当然ペットショップへ来ている方は「ペットを飼いたいな~」と思っている方が多いですから、子猫を抱っこしてつぶらな瞳で見つめられたら「運命的な出会い」を感じてしまうのも無理はありません。
それをよく分かっているからこその「抱っこしますか?」なんです。
この様な衝動買いが後々飼い主の「こんなはずじゃなかった」を招く原因になっているのは間違いありません。
思っていたよりいたずらするなど猫がいう事を聞かない(社会化期の過ごし方に原因がある場合が多いです)とか、こんなにお金がかかると思わなかった(食費や医療費など)とか理由は様々だと思いますが、こういった飼い主たちが「殺処分」につながる行政施設への持ち込みの実態です。
引き取り屋とは?
子猫が売れずに大きくなってくると販売価格が大きく下がってきますが、それでも売れなかった猫がその後どうなるかご存知ですか?
2013年9月に改正された動物愛護法では自治体が業者から犬や猫の引き取りを求められても「相当の事由」がなければ拒否できると明文化されました。
これによってそれまで当たり前に行われていた「売れ残った猫→殺処分」と言う処理がペットショップはできなくなりました。
そこで本当に悪質なペットショップでは「大きくなって売れなくなったら猫を生きたまま冷蔵庫へ」→「死んだら燃えるゴミで処分」なんて業者も実際にいたようです。
ここまで酷いのは少数派だと思いますが、多くのペットショップは「引き取り屋」を利用するようになりました。
もう繁殖能力が衰えた親猫をブリーダーから引き取ったり、大きくなって売れ残ってしまった猫をペットショップから引き取ったりする商売です。
引き取った後、売れる猫はさらに転売されたり更に限界まで子供を産ませたりする事もありますし、いよいよ転売も繁殖にも使えないとなったら狭いケージに入れられたまま掃除や餌やりなどの世話も病気の治療も満足にされず、死ぬまで文字通り「飼い殺し」にされる事が多いのです。
負のループ
ここまでペット産業の現状や裏側の問題点をお伝えしてきました。
TwitterなどのSNSでは毎日の様に里親募集の情報が飛び交っています、地域の沢山の動物愛護団体は限られた人手と予算の中でギリギリの活動を続けています。
そうかと思えば沢山の「用済み」になってしまった猫達が劣悪な環境で飼い殺され、流通過程で家族と出会う事なくひっそり命を落とし、休む間もなくジャンジャン繁殖させられる。
ペットショップやブリーダーは自らの利益を追い求め、行政は税金を使って殺処分し、動物愛護団体は自らの私財や寄付を投じて活動しています。
このエンドレスとも思える「負のループ」を断ち切る方法は無いのでしょうか?
それでもペット産業は回っている
でも、こんな状況ですがそれでもペット産業は今も回っています。
1兆5000億円ものお金が動き、それを生業としている企業も沢山ある中で、ただペット産業を批判しても何も変える事は出来ません。
今はペットを買いたいという需要(子猫が良いとか血統書付きが良いとか)があり、それに応える供給があってバランスがとれているので、急に法律を変えてペットの販売禁止なんて言ったって現実味がありません。
現状を変える為には段階を踏んで少しづつ進めていくしかないんです。
生体販売=悪なのか?
そう考えると「生体販売=悪」とする事は簡単ですが、そうではなくまずは「販売の仕方を変える」方が現実的な気がします。
確かに命を売買する事自体どうなのか?と言う疑問は私も感じますが、まずははじめの一歩が必要なのではないでしょうか。
もう何年もの間「49日なのか56日なのか」と言うせめぎ合いを続けています。
この「たった1週間の間、母親の元にいる時間を増やしたい」と言う想いすら叶わない理由はどこにあるのか?
ブリーダーやオークション業者、ペットショップなどは色々な理由を付けて法改正に反対し、業界自体が一部の議員と癒着し、何とか法改正させないように抵抗を続けています。
でも恐らく8週齢規制によって質の悪い繁殖業者は淘汰され、利益重視の販売業者も撤退せざるを得ない環境にしていく事ができるのではないかと思います。
評価する仕組み
そしてそれと合わせて真っ当なブリーダーやペットショップがちゃんと評価される仕組みを作っていく事も大事だと思います。
どの様な仕事をしているのか?このペットショップは真っ当なブリーダーから仕入れしているのか?など情報がオープンになり、評価される仕組みができれば更に質の悪い業者の淘汰が進むと私は思います。
それによって競争が生まれ、消費者も情報をもとに業者を正しく選べるようになると言う好循環を作る事ができます。
より良い販売方法へ
ちょうど今、法改正の為に沢山の方が活動し、ペット産業全体がより良い方向へ向かう様に懸命に動いています。
せめて今よりも良い環境で販売されるようになれば、不幸な思いをする猫達を減らせるのではないかと思います。
方法は色々あると思いますが、例えばブリーダーの飼育環境を改善するルール整備だったり、ペットオークションの仕組みを変えたり、ペットショップでの販売時の説明を義務化するなどやれる事は色々あるはずです。
色々な面から少しづつ変えていく事で一歩づつ進んでいく事が重要なんだと思います。
ペット産業の裏側~負のループを断ち切る為にできる事~のまとめ
ここまでペット産業の裏側の話を読んでいただいたあなたは決して今のままで良いとは感じなかったと思います。
殺処分の問題でもお伝えしましたが、まずは現状を多くの方に知って頂く事が大切です。
多くの方にシェアしていただく事で、いずれ大きなうねりを作っていけると信じてお伝えさせていただきました。
誰かを助ける事は義務じゃない
笑顔を見る事ができる権利を得る事
つまりは自分の為なんだと思う
1匹の猫を救ったからと言って急に「世界」が変わる訳じゃない
でも、その子にとっての「世界」を変えてあげる事は出来る
コメント